プワゾンドールズ #3
- ハッピーエンド クリスマス -






シスター・マリア

1.ダイバーフォン


  数年前から人間の頭部に携帯電話を埋め込む、簡単な脳改造手術が流行っていた。

 充電の必要がなく、電話としての機能だけでなくネットから直接脳内への情報のダウンロードや、ホームページ感覚でラジオ番組が開ける

 サービス『ダイバーラジオ』などでここ数年のうちに普及し初めている。

 ケータイがすでに己の一部となっている若者たちの間に支持を受けて、発売元の中小企業ダイバーシティ社は一躍大手へと伸し上がった。

  しかしこの脳内携帯電話、『ダイバーフォン』はまた大きな問題も孕んでいた。

 携帯電話が手に持つものだった頃からの問題、つまり電話による通話のみが人との繋がりになってしまうという人間の孤立化を増長させ、

 他人とのコミュニケーション不足によるジレンマが発生するというものである。

 人と話したいが、自分の心に踏み込まれるのが怖い。

 だからどうしても携帯電話という一枚の壁を挟んで、お互いに過剰な干渉をしない接触を求めてしまう。

 そしてそういう人間は、もうケータイを手放せない。



  神薙市神薙町某所。

 大きな淀んだ川沿いに団地が建ち並ぶ住宅街の、とある公営住宅。

 その立ち入り禁止の屋上で一人の少年が壁を背にしてコンクリートに腰を降ろしていた。

 街は彼方まで広がっており、地平線を居並ぶビルが凸凹に象っている。

 空がくすんで青と灰色が入り混じった汚濁した色になっているのは排気ガスのせいだ。

 冬は空気が澄むが、それでも日中は街を貫く高速道路のせいでいつもこんな色をしている。

 恐ろしく無機質で果てしないこの街を膝を抱いて眺めていると、彼はいつも同じ考えに捕われた。

 ――― 明日なんか来なければいいのに。

  少年は名をガガと名乗るだろう。

 ハンドルネームだが、彼にとってはそっちの名で呼ばれる方が実感があった。

 本名で呼ばれる世界で起こる事はロクな事がない。だから本名はもう無視する事にしていた。

 物憂げな両眼は鼻先あたりまである長い前髪に隠れ、風に流れた髪のその隙間から覗く瞳は特に当ても無く空中を眺めている。

  屋上には柵はない。

 最上階の七階から更に階段を昇るとここに行き着くが、扉には昨日まではなかったカギがかかっていた。

 消火器の台尻で殴ったらすぐに外れたが、後で何か言われるかも知れない。

 しかしこの場所はガガにとってたった一つの憩いの場所だった。カギをかけた誰かに屈するつもりはない。

 しばらくはカギの事を考えていたが、すぐにどうでも良くなった。

 眼を閉じて耳を澄ます。

 彼のこめかみから直接伸びているコードは手元のパソコンと繋がっている。

 コードはダイバーフォンの持ち主ならば(場所の差異はあれど)誰でも持っている接続端子で、パソコンと繋げばインターネットから情報を

 落とす事ができる。

 しかし今ガガがパソコンに繋いでいる理由は少し違う。

 彼の頭の中では今、ダイバーフォンを通じて不特定多数の男女の声が満ちていた。

 家にいる子供に帰りを告げる女性。その逆。少年同士の他愛の無い会話。少女同士の内緒話。男から女、或いは女から男への告白。

 消防車/救急車を呼び出す悲痛な声。パトカーの連絡。タクシー運転手の交通情報の交換。テレクラで出会いを求める声。

 テレフォンセックス。すべて電波となって空を飛び交う会話だ。

 パソコンで脳内のダイバーフォンのアンテナの設定をいじれば、こんな『盗み聞き』をする事ができる。

 設定を変えるのにはちょっとした知識が必要だが、彼にとってはそう難事でもない。

  16歳になったばかりのガガの趣味と言えばパソコンとこんな事ばかりだった。

 飛び交う会話の中に意識を委ね、意思伝達の混沌にゆるゆると落ちてゆく。

 ここでこうしているのは気が安らいだ。今この瞬間だけは、自分という存在から逃れる事ができるような気がする。

 瞼の裏側には会話から想像できる様々な人間模様が浮かんでいた。

  厚く着込んだダウンジャケットを通して染み込んでくるような寒さに眼を開くと、もう空の彼方は僅かに夕日に染まり初めている。

 地平線を象るビル群もオレンジ色に塗り替えられ、一日の終わりの訪れを感じさせた。

 唸りを上げる風に身を震わせると、パソコンから端子を抜いて手を離す。

 先端に端子のついたコードは自動的に巻き上げられて、ガガのこめかみにするすると収まっていった。

 ズボンの砂を払って立ち上がると、大きく伸びを一回。関節が乾いた音を立てる。

 随分寒くなってきた。部屋に戻ろう。

 そう考えるとパソコンを脇に抱えて階下へ続く階段に向かう途中、ふと地平線へと向き直る。

 少し躊躇したがすぐに思い立って意識の中でダイバーフォンを起動し、#を四回入れてから七桁の数字を入力する。

 これはインターネットで言う所のホームページアドレスで、傍目には何をしているのかまったくわからないがガガは今ネット空間に

 アクセスしているのだ。

 先述した通りダイバーフォンとパソコンがあれば、若干の手続きの後に誰でも気軽にラジオ番組のチャンネルが開設できる。

 多くはアマチュアバンドが自作の曲などを流しているが、その中の一つにガガのお気に入りがあった。

 耳を澄ましたガガの頭の中にはすぐにノイズ音が満ちた。

 目の前に広がる街から滲み出てくるような、無機質な音に数秒聞き入る。

 すぐに諦めて回線を切り、溜息をついてから階下に向かう。

 数ヶ月前からそのチャンネルは突然消滅していた。

 理由は未だにわからない。



  夕食を終えた後に、ガガは自室で机に向かっていた。

 散らかり放題の部屋の灯りは薄暗く、パソコンのモニタがガガの表情を浮かび上がらせている。

 一度母親に勝手に部屋の掃除をされて以来、扉には家族の誰もが入ってこれないようにカギをつけてしまったせいで、布団は万年床と

 化していた。

 家族との会話はいつも一方通行で、ガガは相槌を打つか面倒臭そうに一言二言答えるくらいだ。

 母親はいつもガガが『普通の事が普通の子のようにできない事』について溜息をついている。

 ガガは母親が嫌いだった。

 彼は自分の領域に誰かが踏み入る事を異常なまでに拒む。

 よってこの部屋で起こっている事は家族は何も知らない。

  パソコンの隣に山のように積み上がっているCDケースの山の中から一つを取り出すと、蓋を開いてパソコンに入れる。

 数度マウスを操作すると、画面には音声再生のウィンドウが現れた。

 『再生』をクリックすると、少しの間パソコンの中からCDを読み取る音が響く。

 この曲を聴く前はいつもドキドキする。

 やがてスピーカーからやや音割れを含んで流れ出したのは、少女の柔らかい歌声だった。

 緩急は穏やかだが時に激しく、優しく、哀しく奏でられる声だけの音楽。



  ダイバーラジオ番組『シスター・マリア』。

 毎週日曜日の夕方五時に流れるホームチャンネル(ホームページのダイバーラジオ版で、個人で開設したチャンネルのラジオ番組)で、

 ガガにとって日常での数少ない楽しみの一つだった。

 クドリャフカと言う少女が流す番組で彼女の歌う曲やたまに自作のものなど流しており、それが気に入って毎週時間になると屋上へ出て

 束の間の安息を楽しんだ。



  眼を閉じて流れる曲に意識を委ねていたガガが、クドリャフカの歌声に被さってスピーカーから溢れ出てきたノイズにのろのろと瞳を開く。

 これは放送が途絶える前の最後の放送だ。

 いつもは三十分の放送だがこの日は十五分しか流れず、後半はすべてノイズに飲み込まれていた。

 そしてノイズの中に混ざっている僅かな声に、ガガはいつもやりきれない気持ちになる。

 ザザザ…ザ… たす …ザーザザ… けて …ザザ… 助け…て …ザザザ 

 確かに、助けを求める声なのだ。

  そういう企画? にしては次週から予告もなしに突然放送が途切れるのはどうかしている。

 あまりに悲痛な魂を震わせるようなその声に、ガガはいつも二つの事を考える。

 何があったんだろう。助けたい。

 無理に決まってる。

 大体ちょっと冷静に考えてみればすぐにわかる事だ。

 ラジオで助けを求める声を聞いたからって本人のところへ行くなんて変だ。

 それに行ったとしてどうする? 僕に何ができる?

 どうせうまく行くワケない。だからもうこんな事を考えるのは止めよう。

 毎度の考えを巡らせて溜息をつくと、CDを取り出してケースにしまう。



  僕は何もできないんだ。

 パソコンとかそういうのはちょっとだけできるけど、誰かを助けるとか悲しんでる人を楽しませるとか、人と話すとか。

 そういう普通の人ができる事はできないんだ。

 寝つきの悪い彼は布団に潜ってもしばらくそんな事を考えていた。



  翌日。

 ガガの月曜日はいつも吐き気と頭痛から始まる。

 布団という甘美な夢心地の世界から凍てつく現実に引き戻される時、いつも今日は休みたいと思う。

 毛布の中に引き込んだ時計を見ながらあと何分、あと何分と不毛な計算をしながらぐずぐずと惰眠を貪る。

 いい加減余裕がなくなった頃に母親の怒鳴り声で目を覚まし、跳ね起きて数十秒で着替えを済ませ、荷物を掴んで家を飛び出す。

 どうせ朝は何も食べる気がしないので毎朝朝食は抜きだ。

  駅へ向かう途中、重い足取りのまま毎朝の溜息をつく。

 行きたくない。

 両眼に覆い被さっている前髪の隙間から覗く太陽は弱々しい冬の朝日を放っている。

 身を切るような寒さに白いダウンジャケットの裾を寄せ、まだ半濁している意識のまま眼を擦る。

 学校は都心とは逆の方向なので住宅街の隅にあるその小さな駅は込んでおらず、電車にもすんなり乗る事ができた。

 車内には学生服姿の男女がちらほらと見える。空いている席に腰を降ろすと、ガガは眼を閉じた。

 車内のアナウンスが終わるとすぐにガタンと座席が揺れ、電車は澄んだ空気を裂いて走り出した。

  小学校の頃は自分は普通だったと思う。

 中学校に入ったあたりからガガは引っ込み思案になってしまったような気がする。

 小学校の頃にできた友達のほとんどが別の中学校に行ってしまったせいか、早々にクラス内で孤立した彼は次第に人と交わる事が

 この上なく苦手になり、結果として現在もその調子で続いている。

 高校へ入ればすべて変わると親は言った。

 しかし実際期待していたような変化は何も起こらなかった。

 ガガはすでに対人恐怖症と言っていいまでに人との接触を恐れるし、友達もできないままだ。

 今日もまたあの居場所のなさに押し潰されそうになる場所に行かねばならないと思うと、彼は毎日のように偏頭痛がした。

 クラスの中でできている、クラスメイトたちの輪の中にどうしても入る事ができないのだ。

 朝起きると同時に今日という日が早く終わってくれと願い、夜寝る前に明日がこなければいいと祈る。

 そんな事の繰り返しがガガの毎日だった。



  瞳を閉じるとすぐに襲ってきた睡魔の中で、ガガはまたアナウンスを聞いていた。

 学校の最寄の駅の二つほど前だ。

 と、同時にいつも思う事がある
                        ホームチャンネル
 次の駅はダイバーラジオのサーバー( H C のデータを管理する場所)の会社の近くだ。

 ダイバーフォンの手術を受けた時にもらった、案内のパンフレットに住所が書いてあった。間違いない。

 もしその会社にハッキングをかけてクドリャフカの情報を引き出せば、彼女に何が起きているかわかるかも知れない。

 できない事ではない。

 ガガにはハッキングをかけるのに最適なある特殊な能力が備わっていた。

  にわかに体に緊張が走る。

 座席の横の鉄柱を握った掌にじっとりと汗が滲んでいた。

 数ヶ月前からこの方法を実行しようとは思うのだが、どうしても踏み出す勇気が持てない。

 やはり頭のどこかで自分の無力を噛み締めるような感覚が邪魔をしているのだった。

 『うまくいきっこない』。『どうせ失敗するに決まってる』。

 窓の外では風を切って風景が流れている。次の駅に着くのにはそう遠い未来ではないだろう。

 いつもこの時になると同じ考えがぐずぐずと頭の中でくすぶり始めるのだ。

 降りてクドリャフカを助けに行きたいという感情は確かにあるが、学校をサボれば怒られるし、一度休んでしまうと明後日から余計に学校に

 行き辛くなってしまう。

  耳障りな金属が擦れる音がビリビリと電車の窓を震わせた。ブレーキをかけているようだ。

 ガガがまだ考えがまとまらないうちに、電車は無情にも駅で停車してしまった。

 やけに間延びして聞こえるアナウンスを聞きながら、彼はぎゅっと眼を閉じた。

 瞼に閉ざされた闇の中で、空気の漏れる音と一緒に電車の扉が両側に開くのが感じられる。

 いつもならここで結局降りる事ができないまま学校に着き、圧し掛かってくる後悔の念に耐えながら一日が始まる。

 発車ベルの音に身を強張らせながら、ガガはぐるぐると頭の中を巡る様々な感情に小さく首を振った。

 もう一度空気が漏れて、電車の扉がスライドする音。

 運転士が下車する人間を確認した後に発車の笛を吹こうとした時、自分のいる先頭車両の後ろの扉から飛び出そうとした少年の姿が見えた。

 慌てて笛を口から離し、ドアに挟まれて呻き声を上げた彼を確認して車掌に手を振る。

 閉じかけた扉がもう一度開いて解放された時、ガガは胸を押えてホームに飛び降りた。

 驚いてこちらを見ていた乗客と運転士がこちらをじろりと睨んでいたのが少し気になったが、ガガはありったけの勇気を振り絞って改札口へと

 歩き出す。

  やっぱり、クドリャフカを助けたい。

 他の事は忘れて、ガガは自分の中のその感情だけを信じる事にした。

 かくして彼は日常という無限回廊から逃れ、ほとんど当ても無い冒険に出る事となった。

 なけなしの勇気とクドリャフカへの思いだけを胸にして。




  自宅からハッキングをかけるのはマズかったし、学校をサボるという行動はガガなりの決意の現れだった。

 駅を降りた先はもう自分の日常の中では関係のなかった世界だ。

 見慣れない街の光景を眺め終えた後、ガガはダイバーラジオのサーバー局のビルを見上げていた。

 会社名は『ダイバーバード』とある。

 七階建ての正方形をしたビルで、あまり大きいとは言えず駐車場も狭かった。

 出勤してきた会社員たちが制服姿のままでいるガガを不思議そうに眺めているのに気づき、彼はそそくさと人通りのない通路に身を隠す。

  あの会社に電子的に侵入する方法を考えなければならない。

 長時間ネットにアクセスする事ができ、尚且つ怪しまれない場所を見つけなければ。

 あたりを見回したが、目に入ってくるのは小さなビルや個人営業の店ばかりだ。

 線路沿いの狭い道をしばらく歩くと、風俗店が軒を並べる通りに出た。

 まだ点いていない派手なネオンの看板が掲げられ、薄汚れた建物が窮屈そうに肩を寄せ合っており、人通りはほとんどない。

 ガガには縁の遠い場所だった。

 ネット喫茶を探して通りに踏み入ると、一つ二つもう開いている店がある。

 看板を見たらすぐに何の店かわかった。ラブホテルだ。

 『休憩・サービスタイム料金(平日)
   24時間休憩可能(3時間単位)      5000円〜6500円
   <サービスタイム> 6:00〜17:00  5000円〜6500円

 宿泊料金         22:00〜10:00  9000円〜12000円』


  ガガは唸った。

 確かにここなら完全な個室だ、一人で何時間インターネットをしても怪しまれないだろう。

 金銭の問題ない、しかし未成年が制服のままで一人で朝から入る事などできるのだろうか?

 そもそもこんなところに一人で入るのには抵抗がある。

  道路の反対側に立ってホテルの入り口を睨みながら、考えを巡らせる。

 建物の正面は真っ白な壁が広がっており、垣根の奥にポツンと入り口のガラス張りの扉があった。

 その隣には地下駐車場の出入り口が口を開いている。

 ふと入り口が開くと、背広とスーツ姿の男女がそそくさと出てくるのが見えた。

 垣間見えた扉の奥にはカウンターらしきものはなく、大きな何枚ものパネルと壁に埋め込まれた自動販売機のような物があるだけだった。

  ふとガガは漫画で読んだことを思い出す。

 確か世の中のラブホテルの中には接客の係がおらず、自動販売機でカギを借りて部屋に行くシステムの場所もあるとか。

 もう一度腕を組んで考えをまとめる。

  多分エントランスには監視カメラがあるだろう。いくら何でも制服で入るのマズい。

 しばらく歩き回ってもう開店している気の早いファッションショップを見つけると、適当な服を買って駅のトイレで着替える。

 少し迷ったが制服とバッグの中身の学習用具はコインロッカーに突っ込んでおいた。

  かくして下はジーンズ、上は黒と灰色のカットソーにダウンジャケットを羽織った格好でガガは再びラブホテルの前に立っていた。

 やっぱりやめようという考えが何度も過ったが、ここまで来てそれはないだろう。

 チビという事はガガのコンプレックスの一つだったが、今もまたその事を恨めしく思う。未成年だとバレたら放り出されないだろうか。

 頭を振って悲観的な考えを振り払うと、誰にも見られていない事を確認して緊張でガチガチになったまま彼はラブホテルに踏み入った。

 魔物の巣窟に踏み込む冒険者の気分だった。



  やはり監視カメラはこちらを睨んでいた。

 自分に『落ち着け』と何度も言い聞かせ、入ってすぐの右手の壁にある自販機に向き直る。

 壁にはバックライトを受けたパネルが何枚か貼り付けられており、それぞれの部屋の紹介をしているようだった。

 素早く視線を巡らせて『インターネット環境完備』の部屋を見つけ、コントロールパネルのボタンにその部屋のナンバーを打ち込む。

 支払いは財布から取り出したカードを差し込む事で済ませた。

  このカードは数年前からカード会社が始めた簡易型クレジットカードとでも言うべきもので、コンビニなどで例えば五千円分買えば、

 このカードは五千円貯金のあるクレジットカードと同じ働きをする。

 盗まれたりしても口座自体は無事なので、子供に持たせたりする時に使う便利なものだ。

 カード犯罪が多発する今の社会で一つの安全策として提案されたものである、

 ただしこのカードはガガが磁気を操作して作った特別製で、いくら使っても絶対に残り残高がゼロにならない。

 カードは記録が残ってしまうのが難点だがこれはその点も解決してある。つまり使った事の記録事態が残らないよう改造されているのだ。

 もちろん犯罪行為で、誰かが見ている所では虫も殺さない性格だが、陰日なたが激しいのがガガの性格だった。



  途中で一度一組の男女にすれ違った時は心臓が破裂するかと思ったが、廊下は照明が行き届いておらず薄暗いせいでお互いに顔や

 年齢まではわからなかった筈だ。

 カギのルームナンバーを辿って入った部屋の中は10畳ほどの広さがあった。

 入ってすぐの隣にトイレとバスがあり、そこを通り抜けて奥へ行く。

 妙な非日常性を感じる場所にガガの胸は高鳴った。ここで見知らぬ男女が絡み合っていたかと思うとドキドキする。

 抑えられた照明の下を靴を歩いて行くと、天井の照明から淫靡なオレンジ色の灯りを浴びてダブルベッドが浮かび上がっている。

 と、その隣にデスクトップパソコンのある机があった。

  彼の想像では丸い回転するベッドがあると思っていたがどうもここにはないらしい。

 ちょっと残念に思いながらパソコンに向き直り、椅子を引いて腰を降ろす。

 天井には安っぽいシャンデリアが降りていたが灯りが少々足りない。手元にスタンドのスイッチを見つけ、入れる。

  手順としてまずダイバーバードのサーバーに潜る。

 恐らくサーバーには今までにHCを開いた人間のデータが残っている筈だ、そこからクドリャフカを辿る。

 パソコンを抱き抱えるような形になりながらモニタの背面に手を伸ばし、ケーブルの一つを引っこ抜いて手元に持ってくる。

 次に自分のこめかみから接続端子のコードを引っ張って伸ばし、片方の手の中に残っているそのケーブルの端子と繋げる。

 繋がった二つのケーブルとコードの金属部分はスタンドとシャンデリアの二つの灯りを折り混ぜ、美しく輝いて見えた。

  ガガの接続端子は特別製で、先端にバリアブルメタルという特殊な自由成形金属を使用している。

 これはジャックホールや反対側の端子の形に合わせて、自身を粘土のように変型させる為、どんな端子にも繋ぐ事ができる便利なものだ。

 高かったが(もちろん代金はカードで払った)。

 もうそろそろ学校では一時間目が始まっているだろう。何だか非現実的な自分の現状に体と頭がふわふわしていた。

  さあ、いよいよだ。

 自分に気合いを入れると意識を集中させ、大きく深呼吸する。

 次の瞬間、ガガの意識は肉体を離れてネット空間へと移っていた。





















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