プワゾンドールズ #3
- ハッピーエンド クリスマス -






シスター・マリア

最終話.この世界でたった一人の君へ


  通り過ぎた背後で金属を穿つ音が炸裂している。

 シスター・ヴェノムが滅茶苦茶に重力波を放っているのだろう、時折微かに彼女の怒号や叫び声が聞こえて来た。

 ゆっくりとではあるがそれは確実に距離を縮めてきており、焦燥がガガの背を焼く。

 唯一の救いはシスター・ヴェノムが想像以上に鈍足という事だ。

 乗っ取ったアポロのボディは重力を制御する巨大な左腕のせいでバランスが悪く、走る事ができないのだろう。

 対してガガも肘と指、肋骨を折っており、苦痛に薄らぐ意識を繋ぎ止めておくのに精一杯だった。

 状態は僅かにガガに不利だ。

  胸の奥で諦観が渦巻いていた。

 どうせもう間に合わない。うまくいきっこない。

 「できる。きっとできるよ…」

 浮かんでくる自分の考えを否定する呪文のようにガガはそう呟く。

 「できないもんか、信じるんだ! 僕の中の強い自分を信じるんだ」

  廊下は尚も続き、前方の光景には相変わらずほの暗い闇が覆い被さっている。

 ガクガクする足を必死にその奥へと運ぶ内にシスター・ヴェノムの無差別な破壊音はすぐそこにまで迫っていた。

 随分長く感じられた距離を小走りに進むとようやく闇が途切れ、通路の突き当たりに巨大な門が姿を現す。

 確かに扉の脇のプレートには『セイスクリッド・スフィア』とあった。

 その扉には取っ手もノブもなくただの巨大なニ枚の板を通路に置いて扉にしたという風で、奇妙な虹色の銀光を照り返す表層が

 薄闇の中で幽玄のように輝いていた。

  扉に駆け寄ろうとしたガガの背で何の予告もなしに衝撃が弾けた。

 堪らず前方に吹っ飛び、床を何回転かしてようやく停止する。背中に走った一文字の苦痛で脳が焼けた。

 シスター・ヴェノムの放った重力の爪だ。出血量からしても皮膚が裂けたに過ぎないだろうが、骨も肉もバラバラになりそうな疲労と

 苦痛に苛まれていたガガにこの一撃は想像以上に応えた。

 体を串刺しにした衝撃にしばし呼吸が止まり、意識にかかったもやの濃度が増して行く。

 咳と一緒に胃液を吐き出しながら、しかしそれでも気絶しなかったのはガガの精神力が抗ったからだ。

 死への恐怖に心臓を鷲掴みにされ痛苦は肉体と精神を分離させようと少年を蝕むのにも関わらず、彼の心の中では一つの大きな

 感情がそれらに対して必死の抵抗を見せている。

 うつ伏せの状態からようやく立ち上がり、ガガは今更ながら自身の支えとなっているそれに気付いた。

 きっとこれが『勇気』というものなのだろう、と。

 ガガ!

 扉の隅についているコントロールパネルからの声が僅かばかりガガの意識をはっきりさせる手掛かりとなった。

 「大丈夫だよ、それより扉を」

 足を引き摺るように扉の前までやってくると、アザーに開門を促す。

 一つの言葉を発するごとに内臓が煮えたぎるような苦痛を感じた。

  しばらくその場に沈黙が落ち、すぐに扉の内部から幾つもかかったロックが外れる作動音が僅かに響く。

 ガガを見下ろす扉は大きさに似合わない速度で瞬く間に開いた。

 中から噴き付けてきた冷えた空気がガガの顔を撫でた。空気清浄機が働いているのか、ここだけは錆の臭いがしない。

 風を押し返しながら中に入るとそこには果てしない白が広がっていた。

 セイスクリッド・スフィアの内部は巨大なドーム状となっており、壁は一面純白で壁と天井の輪郭さえ定かでない。

 床にはガガの膝あたりまで真っ白な稲のような草が生い茂っていてどこからか吹いてくる冷たい風になびいていた。

 草の上の所々に誰かが落としていったようにカプセル状の棺桶のようなものが置かれている。

 21番のカプセルを探せ!

 アザーの声がドームのどこかについているスピーカーから放たれ、ドームの屋根に響き渡って残響音を刻んだ。

 クドリャフカはそこに封印されている

  ガガは不規則に置かれているカプセルの確認を始めた。

 カプセルは表面が鏡のようになっており、風景や覗き込んだガガの顔などを歪めて映し出している。

 すべてに数字が振ってあるがカプセル並び方とは全然関係ないようで、21番を探し出すのには骨が折れた。

 背の傷から滴る血液が真っ白な草に紅の点を落とす。

 その草を踏み分けながらドームの中央近くのカプセルまで確認が及んだ時、ようやく彼は目的の物を見つけ出した。

 他のものと大差ないカプセルでやや上部のあたりにコントロールパネルがついている。

 解凍するんだ、まずはパネルに触って!

 ガガが言われた通り折れた指先を何も表示されていないパネルに当てると、ぼうっとモニタに明かりが入った。

 様々な数値や文様が浮かび上がった後に選択肢がいくつか現れる。

 脳細胞の修復率を100%に設定してから『解凍』を押して

 言う事を効かない折れた指で操作するのは酷だったが、すべての要項を済ませるとカプセルの内側から光が溢れた。

 コントロールパネルには0.00単位で解凍率の%表示がされている。

  その場に膝をついてガガはひたすら重く進む時間が過ぎるのを待った。

 指の折れた左手をカプセルに当て、何事か話しかけようと口を動かす。しかし声は何も出なかった。

 この内側にクドリャフカがいる。それだけでどうしようもなく胸が熱かった。

  解凍率は80%を越え、やがて90台に入った。

 カプセルが細かく震動したのをガガは蓋が開く兆候だと思った。

 しかしギシギシという不気味な軋みを全体から上げ、カプセルの表面に五つの窪みができた時に異常を感じ取る。

 窪みはまるで巨大な五指のようにカプセルに巻きついており、見えない爪に鷲掴みにされているようだ。

 カプセルが細かな破片や部品を落としながら音もなく持ち上がった時、ガガは扉の方を見た。そして後悔した。

 自分を見たものを否定しても無駄だった。

 シスター・ヴェノムは左手を掲げ、まるで見えない何かを掴んでいるような仕草を見せている。

 顔には歪んだ笑みを張り付かせていた。

 「最高の悪夢は最後にやってくるのさ」

 その手の中に五本の爪が握り込まれると同時にガガの目の前のカプセルは紙箱のようにひしゃげ、潰れた。

 隙間から噴き出した解凍されたばかりの血液が幾筋も噴水のように噴き出し、その内の一つがガガの横顔を打つ。

 ガガは手の甲でそっと顔の血を拭い取った。

 これは本当にクドリャフカの血液なのだろうか? 絶望を通り越して放心した胸の内側でそんな事を呆然と考える。

  空っぽになった少年の内側に腹を抱えて笑うシスター・ヴェノムの笑い声が響き、通り抜けて行く。

 その哄笑が突然、千切れた。

 彼女が立っていたのは大扉の敷居の上で、両側から迫ってきた扉の板は合掌するようにその体を挟み込んだのだ。

 生身の人間ならば煎餅のようになっていただろうが、しかし強化されたアポロのボディは凄まじいその不可にも絶えた。

 全身から骨が砕け肉が千切れる音を漏らしながらも辛うじてまだ原型を保っている。

 シスター・ヴェノムの上半身はほぼガガのいるセイスクリッド・スフィアの内部へと入っているが、左腕と残りの半身は扉に

 咥え込まれていた。

 「アザーか!?」

 憎き相手の名を叫ぶと左手に意識を集中させる。掌に埋め込まれた黒い球が鳴った。

 しかしすぐに彼女は左腕から力が抜けていく感覚を知る。

 腕から最後に感じた神経信号は何かが次々と内部に潜り込んでくる、例え様のない不快感だった。

 振り向く事さえできないシスター・ヴェノムはそれが何なのかわからなかった。ただ予想はできた。

 左腕に撃ち込まれたものは銃弾だ。

 ガガの救出にやってきた部隊の中で、まだ動ける者がいた。巴川の仕業だろう。

 腕は痺れ、完全に感覚を失う。

  シスター・ヴェノムはたぎる憎悪と烈火のような怒りに半ば狂いかけた。

 目の前ではガガは事の成り行きなどもはや関係ないとばかりに虚脱に取り付かれている。

 あの少年に取っておきの絶望を与えた事は満足だとしても、見下している存在であるアザーに殺されるというのは許せないのだ。

 アポロのボディの軋みがどんどん大きくなって行くのを感じながら、シスター・ヴェノムは最後の手段に出た。

 「アタシには誇りがある…」

 もがく事を諦めた彼女はゆっくりとアザーに話しかけた。

 「アタシはこの世にただ唯一、一人のシスター・ヴェノムという存在だって事!

 アタシはアタシとして存在する価値があるんだよ!

 それはアタシの誇りでありその誇りはアタシのすべて。アタシはアタシであるという事にのみ生き、死ぬ。

 計算機に毛が生えた程度のてめェにそれがわかるか、電卓野郎…」

 返事は来ないが、シスター・ヴェノムは満足だった。苦し紛れの笑みを浮かべて右手の中指を立てる。

 「YOU DIE!」

  突如、彼女の体が風船のように膨れ上がった。

 圧倒的な圧力で扉を押し返しながらその体はまさしく空気を入れ過ぎた風船のように弾け飛ぶ。

 中から雪崩るように溢れ出したのは水銀のような銀色に輝く液体だった。

 物理法則を曲げてあの小さな体に詰まっていた水量は凄まじく、たちまち銀の液はセイスクリッド・スフィアのドーム内と反対側の

 通路へと殺到を始めた。



  通路では銃を構えた巴川とミス・シンデレラが扉から噴き出してくる銀の水に呆気に取られていた。

 洪水と化してうねりすべてを飲み込まんと迫り来るそれに慌てて二人は反転し、走り出す。

 ミス・シンデレラはここに来るまでにヘルメットやボディアーマーの一部が煩わしくなり脱ぎ捨てていた。

 「ガガ!? 畜生!」

 振り向いて友人の名を叫びながら走る彼の前を巴川は黙々と疾走している。

  ほんの数分の後、不意にミス・シンデレラが立ち止まった。

 わき目も振らず先行していた巴川が突然消えた背後の気配に振り返る。

 彼の視線の先でミス・シンデレラは呆然とうねる洪水を眺めていた。

 それはどういう訳か凍り付いていた。

 さっきまで二人を追い立てていた波は時間が停止したように固まっており、行進を中止している。

 しばらくはそのままだったが不意の眠りから覚めたように銀の水はゆっくりと溶け、廊下を後退して行った。

  二人はこの事態にしばらく黙り込んでいたが、ミス・シンデレラは黙ってそのうねりを追い始めた。

 巴川もそれに続く。

 しばらく行った所で銀の水は通路一杯に陣取った平面な壁となっており、二人の行く手を塞いでいた。

 「どうなってるんだこりゃあ」

 ぼそりと呟いた巴川を背後に、ミス・シンデレラは手袋を外してその銀の壁の表面に掌を当てた。

 皮膚にぞわりとするような冷たさが染み込んでくる。

 ミス・シンデレラ!

  通路の隅からアザーの声が聞こえ、ミス・シンデレラは振り向いた。

 ナビゲーションコンピューターが置かれている。駆け寄ってモニタに目をやると悲痛な表情の青年がいた。

 「アザーか? ガガは!?」

 シスター・ヴェノムが自爆したんだ、最後に電波を使って自分の心のサイバースペースを具現化したんだよ!

 それにガガが飲み込まれちゃったんだ!

 「落ち付けよ、どういう事だ?」

 アザーは唾を飲み込むと荒げた息を沈めようと努力した。

 人はみんな心の中にネットワークを持っている。記憶とか感情とか、そういうもので形成された心の迷路…

 ヴェノムが想像力を具現化できる力は知ってるだろ? あの銀の液はヴェノムの心なんだ。

 このままだとガガがヴェノムの心に消化される!

 「どうすればいい?」

 破壊するんだ、この銀色のやつを! こんな強引な方法だとガガの精神に若干障害が出るかも知れないけど時間がない!

 まくし立てたアザーに背を向けると、ミス・シンデレラは自身の背後で腕を組んでいた巴川に向き直った。

 「聞いたよな」

 「ああ、聞いたとも。だが」

 ゆっくりと組んでいた腕を解き、彼は否定の仕草をする。

 「協力はできんな」

 「何故!」

 巴川はヘルメットを外すとニッと笑って見せた。

 ミス・シンデレラにとっては吐き気のするような笑みだった。

 「こんな面白いもの破壊できるか。無傷のまま社に報告する」

 「貴様…」

 彼とミス・シンデレラの右手が同時に霞み、片方が激しく銀色の液体金属を噴き出した。

 腕を撃ち抜かれた苦痛に呻いて内臓銃に変形しかけた右手を押さえたのはミス・シンデレラの方だった。

 巴川は片手に硝煙を吐く拳銃を握っている。

 「わかりやすいヤツだな、お前は」

 こちらの苦笑を憎々しげに睨むミス・シンデレラに巴川はなるべく柔和な笑みを作ってやった。

 「握手の時に右手を出さなかった時に気付いてたんだよ、仕込んだ銃ではなくお前のどうしようもない甘さにはな。

 殺しはせん。お前は大切な一人息子だ」

 「左手を出しておけば、お前は右手にだけ注意を払うだろ…?」

 ミス・シンデレラの言葉に一瞬、巴川の表情が変わる。

 今度は彼の方が遅かった。

 持ち上がったミス・シンデレラの左手が開き、中から突き出した銃口が巴川の眉間を吹き飛ばす。

 頭部の半分をミンチにされた彼は血肉を噴き出しながら床へと崩れ落ちた。

 「くそオヤジめ」

 罵りを苦い表情で済ませると彼は死体の装備から爆発物を探す作業に取り掛かった。






  激しい水流が銀の飛沫を巻き上げながらこちらに迫ってきたのはわかった。

 耳元でアザーの声が響いていたが、ガガにはどうしようもなく行動する気力が欠けていた。

 一時体はうねりに飲まれ激しく揉まれたような気がしたがそれもすぐに消えて失せる。

  自身の五感が戻った時、ガガは変わらぬ姿勢のままその場で膝を突いていた。

 床はさっきいたセイスクリッド・スフィアの地面よりいくらか硬く、コンクリートのような冷たさを含んでいる。

 凄まじい脱力感だった。

 まるで凍り付いた海の中にいるように四肢は凍り付き、空白の思考がひたすら続く。

  不意に湧き上がった強い光を感じてガガは顔を上げた。

 そこは何も見えない、星のない真っ暗な空に閉ざされた世界だった。

 ただガガのやや前方にスポットライトのように光の柱が落ちており、何か長方形のものを茫然と浮かび上がらせている。

 彼は熱の篭らない足に力を入れ、そこまで歩み寄って行った。

 置かれているものはベッドで、その上で体を丸めて眠っている少女に視線が移った時、ガガは目を見張った。

 銀色の艶やかな髪に、物憂げな大きな瞳。

 クドリャフカだった。

 ここがシスター・ヴェノムの内側の世界だとすれば、あれは彼女が閉じ込めていたクドリャフカの精神に違いない。

 しかし今のガガにそこまで考えは及ばない。

 ただ自分をどうにも制し切れず、彼女に向かって走り出した。

 「クドリャフカ!」

  駆け寄った彼は前方で突然凝固した空気にぶつかり、したたかに鼻先を打ち付けた。

 鼻の頭を押さえながら後退するとそれは空気が固まっているのではなく、テレビ画面だという事がわかる。

 大小いくつものモニタを不規則に積み重ねて大きな一つの画面とし、クドリャフカの画像を映し出しているのだ。

 ガガは周囲をぐるりと回ってみたがモニタは円柱状に組み合わせられている。

 不思議な事にその画面はこちらの見る角度に会わせて映像が変わり、少女とベッドの姿を様々な方向から見る事ができた。

  指の砕けた手の甲で画面を叩きながらガガは何度も彼女の名を呼んだ。

 衝撃は折れた右肘に響き、背中の傷は燃え盛るように痛む。

 果たしてこれは現実なのか虚構なのか? もはやそれでさえ彼にはどうでも良く、ただひたすらクドリャフカと連呼する。

 だから少女の瞼が開き、物憂げな瞳が自分に向けられた時ガガは狂喜した。

 「ガガ…」

 シーツを押し退けて起き上がった彼女はベッドから降りると、床の上に降り立った。

 彼に一歩踏み出すがそこで思い留まり、クドリャフカは胸の前で両手を重ね合わせておずおずと後退する。

 相手の行動にしばし呆然とするガガの目の前で彼女は目を伏せたまま語り始めた。

 質の劣るスピーカーを通した劣悪な音声が放たれる。

 「来ちゃったんだ」

 「君を…」

 唾を飲み込み、少年はようやくそのセリフを口にする所まで辿り着いていた。

 何度も頭の中で練習したセリフが喉から滑り出す。

 「君を助けに来たんだ」

 「…」

 顔にかかる銀髪もそのままに彼女は自分の真っ白なワンピースを掴んだ。

 眼は更に伏せられ、口はきゅっと結ばれている。すくなくとも喜んではいないだろう、ガガの想像していた態度とは異なった。

 「何もかも見えていた」

 「?」

 「ヴェノムが見聞きしたものや感じたことはすべて私にも伝わってくるの…

 彼女の眼を通して見える世界がどれだけ歪んだものだったかわかる?

 最初はヴェノムの眼がレンズみたいにそう見せていると思った、でもそれは本当は私が見ていた世界と同じなの!

 あの子はもう一人の私なんだもん…」

 手を伸ばせば届きそうな距離にいるのに、ガガには涙の雫を床に落とす彼女に対してどうする事もできなかった。

 インターネットで知り合った顔も知らない異性が苦しんでいると知った時と似ている。

 可哀想だと思っても、助けたいと思っても、自分にはどうしようもないのだ。

 ネット回線で繋がった世界は相手との疎通の距離を縮め、心の距離を果てしなく広げる。

  バヂッという静電気が弾ける音がした。

 驚いて顔を見上げたガガの視線の先でモニタの一つの映像が途切れ、入れ代わりに文字が表示されている。

 『SYSTEM DOWN』と。

 「…?」

 「私はこのまま消えるわ」

 ガガの視線が絶望に色を失い、再びクドリャフカに戻る。

 「ここはヴェノムの作り出した世界なの…このままだと貴方は溶けてなくなっちゃうの。

 助かるには私が死ぬしかない。そうすればヴェノムの呪縛が解ける」

 「そんな!」

 気が狂いそうになりながら彼は手の甲を画面に叩き付けた。

 裂けた皮膚から鮮血が飛び散り、モニタを染めている。しかしその苦痛に気付かないほど彼は混乱していた。

 「君はラジオん中で言ってじゃないか、『道を信じて探そう』って!」

 「私にナイトメアウォーカー発動キーがあるのは知ってるでしょ? ここから出てどうするの?

 また私はどこかで必ず同じ事を繰り返す!

 もう寂しいのも痛いのもイヤだ…毎日毎日、世界中でこんな事ばっかりじゃない…」

 「…」

 半ば自暴自棄になって怒鳴り返すクドリャフカにさすがにガガも言葉に詰まる。

 彼は反論する術を持たなかった。彼女は自分と同じ絶望をこの世界のどこかで見てきたのだ。

 抱き続けてきた痛ましい疑問が再びガガの胸を貫く。

 僕に彼女を救う事ができるだろうか?

 『生きなきゃダメだ』とでも言えばいいのだろうか。そんな無責任で何ら意味がないことを?

  ガガはぎゅっと瞼を閉じた。

 目の前のモニタ群は次々と映像を失い、入れ代わりに『SYSTEM DOWN』の文字を規則正しく点滅させている。

 クドリャフカの姿を映し出しているモニタはもう半分ほどしかなかった。

 すべてのモニタが覆い尽くされた時、彼女は雪のように消えてなくなってしまうのだろう。

 ガガはまだ映像が残されているモニタに額を打ち付けると、俯いたままぽつりぽつりと語り始めた。

 「…僕もずっと思ってた。君みたいにそう思ってたんだ。

 毎日が辛くて痛くて、死にたいとか消えたいとかいつも思ってた…どうしようもなく僕は一人だった。

 どこへ行っても、一人きりだった。

  でもクドリャフカ、君がいてくれたんだよ! 毎週水曜日の夜に届く君の声と歌がその間だけは僕を一人じゃなくさせてくれた!

 この街のどこかに君がいる、僕と同じようにどこかでこの歌を聞いている人がいるって…

 君の言う通りこの世はムチャクチャだ、物凄く酷くて寂しい場所だよ! 僕を見下して笑ってるようなヤツばっかりだ!

 だけど僕はやっぱりこの世界にいたいよ、だって…」

 溢れた涙が心の傷に染みた。顔を上げるとそれは頬を伝い、床へと落ちて行く。

 「ここは…クドリャフカ、君がいる世界だから…!」

 ガガは喉の奥から搾り出すように叫んだ。

 その語尾が闇に消える頃、すべてのモニタからは映像が失われていた。

 いくつもの『SYSTEM DOWN』の文字に見下ろされながらガガはその場で立ち尽くしていた。

 文字の点滅に合わせた単調なアラームが虚空に響く。

 「…クドリャフカ?」

 いや、彼が掌を当てたものだけにはまだクドリャフカの姿が残されている。

 折れてあらぬ方向へと曲がった少年の指に画面越しに彼女の細い指がそっと重なった。

  次の瞬間、すべてのモニタがヒビが走る間もなく一瞬で砕け散った。

 ガラスの破片を浴びながら立ち尽くしていた少年の掌からは硬い感触が失せ、柔らかい感触に入れ代わっている。

 冷たいそれは折れた指を気遣うようにそっと彼の手を絡め取った。

 お互いに信じられないような表情で片手を合わせたまま、二人はしばらくそのまま見詰め合っていた。

 砕け散ったモニタの中の虚像だったクドリャフカは今、現実のものとなっている。

  クドリャフカの表情が不意に歪み、彼女はガガの胸に飛び込んでから関を切ったように泣き出した。

 しゃっくりを上げる彼女を片腕で抱き締めたガガの目の前では闇が少しずつ晴れて行く。

 すべての暗雲が消えた時に、二人は抱き合ったままセイスクリッド・スフィアの中央に立っていた。

 視線の先の砕けた入り口付近に呆然とこちらを眺めているミス・シンデレラの姿が見える。

 あの銀の水は跡形もなく消滅していた。

  ガガは力の篭らない腕で精一杯彼女を抱き締めたが、小さく震える彼女の体は確かにそこに存在していた。

 シスター・ヴェノムの使用していたボディであるアポロは元はクドリャフカの遺伝子から作られていた。

 恐らくクドリャフカの思いが一度は融解したボディから再び彼女の体を再構築したのだろう。

 ナイトメアウォーカー発動キーの持ち主は思考や感情を以って現実世界に干渉する事ができる。

 ガガの呼びかけにクドリャフカはこの世界に存在する事を望んだ。それは今までになく強い願いだった。

 留まりたいと願う心がその場に『在る』という事を許したのだ。



 「これが奇跡ってヤツかな?」

  ミス・シンデレラは呟きながら彼らの方へと歩み寄って行く。

 「ガガ」

 彼の呼びかけにガガは照れたような微笑を浮かべ、顔を上げた。

 ミス・シンデレラはその笑みにウインクしながらガッツポーズをして返す。

 邪魔しちゃ悪い、と思わないでもなかったがオートガードマンはオフラインで行動しているのだ。

 ここも何時までも安全とは言えまい、ミス・シンデレラは気兼ねしながら二人を促した。

 「仲の良いとこにお邪魔するが、あんまりのんびりしてるワケにもな」

  ガガには何故かミス・シンデレラの声が恐ろしく遠くに聞こえた。

 酷い耳鳴りがして頭が割れるような頭痛がする。耳が変になったのかと思い、ガガは聞き返そうと口を開いた。

 声を制して出てきたのは熱い塊だった。

 クドリャフカの横顔に血を吐きかけ、ガガは自分の全身から氷が溶けるように力が抜けて行くのを感じた。

 意識の端に生まれた無が触手を伸ばし、思考を覆い尽くそうと範囲を広げる。

 彼女の悲鳴とミス・シンデレラの叫ぶ声が聞こえた。

 何もかもが闇の中へと落ちて行く。


























 …こんばんわ。えーと…皆さんお久しぶりです。

 長らくお休みしていた『シスター・マリア』ですが今週を以って再会させて頂きますイエーイ! …ゴホン。

 結構色んな人からメール貰っちゃって、『どうしたの?』って心配してくれた人達、ほんっとーに有難う御座いました!

 私もまあ色々と思うところがあって。ま、ちょっとした事なんですけどね


  古ぼけた木製の卓上ラジオから聞こえてくる、弾むような心地良い彼女の声を聞きながらミス・シンデレラはニヤケている

 自分に気付いた。

 身を沈めたソファの隣では顔を朱に染めたクルミが毛布に包まって眠っている。

 大部屋には彼ら二人だけではなくあちこちで酔い潰れて転がっているミッドナイトパンプキンの社員を見る事ができた。

 料理を食い散らかした後のテーブルに突っ伏している者もいる。

 今年の社のクリスマスパーティは一際盛大だったようで、しんと静まり返った室内には狂騒の残り香が溶けていた。

 鼻をひくつかせれば今でも料理や酒、クラッカーの火薬の匂いが漂っている。

  ミス・シンデレラはアップにした金髪を彩る銀細工の髪飾りを外すと、そこに彫られた文字に指を這わせた。

 スペイン語で『愛すべき人へ』とある。クルミのクリスマスプレゼントだった。

 また笑みを漏らすと視線を横に移し、彼は飽きる事なく妹の寝顔に見入った。



 だけど、私にとっては大きな転機になりました。

 窮地に陥ってた私を助けてくれた人がいたんです。

 その人は強い…いや。あんまり強くもなかったかなあ? アハ。

 でも、きっと優しい人なんだと思う。だから人より多く傷ついて生きてきたんじゃないかな…

 他人の事を考えるのってホントに紙一重なんですよね、自分が傷つく事と…


  とあるネット空間の片隅では、情報が集結する事によって生まれた一つの模擬人格が彼女の言葉を拾っていた。

 飛び交う通信の光が交錯する中、場違いな白いテーブルに腰を下ろした背広姿の青年。

 アザーは紅茶を片手に街の防犯カメラから見える街の様子に眼を細めていた。

 人々の顔も心なしかほころんで見える。データ上の存在である彼も心が弾むような錯覚がした。

 いや、きっとそれは錯覚ではないのだろう。

 アザーは今は自分に心があると信じている。そしてきっと心の存在を証明にするのにはそれで充分なのだろう。

 自分はアザーというたった一つの存在なのだ。

 今までも、そしてこれからも。



 その人は私に教えてくれたの。

 ああ、教えてくれたって言うか…私に自然とわからせてくれたって言うのかな。

 痛いとか辛いとか言ったって、自分が赤ちゃんで相手が母親でもなければ誰も助けちゃくれないって。

 みんな自分の弱さと戦って生きている。自分だけが何もできないワケじゃないわ


  とある廃墟の屋上では黒尽くめの男女がダイバーフォンを起動させて夜の街を見下ろしていた。

 道化師のような格好だがトータルとして黒を基調としたコーディネートになっており、雰囲気は闇そのものだ。

 くすんだガラスの彼方で街はぼやけ、瞬いて見える。

 ホノカグヅチとナヴァルーニャはその蜃気楼のような街を眺めたまま、しばらく身動きしなかった。

 とある事件からゴッドジャンキーズは壊滅し、メンバーは各々散会してしまった。

 しかしホノカグヅチは持ち前の呑気さで特にその事態を難とは受け取っておらず、片手の安いワインをビンごとぐいぐい

 飲っている。

 別にどうだって構わなかった。美味い酒かお茶、それにお菓子があれば平気だ。

 どこかでまた自分の能力を必要としている場所があるかも知れない。

 そこに収まり、自分にとって楽しい事を探して行けばいいい。

 「お前ァどうすんだ?」

 豪快に淡い紫色の液体を飲み干し、酒臭い息と一緒にホノカグスチはその言葉を吐き出した。

 「さあね」

 ナヴァルーニャは目を閉じたまま他人事のように言った。

 彼女には故郷も親族もない。友人達もすべてバラバラになってしまった。

 だけど今、頭の中にはたった一人の家族の声が優しく響いている。

 生きて行けるだろう。この声が届く場所ならば、例えどこであろうとも。

 「世界は広いわ。私は私を愛してくれる人を探しに行く」




 人は愛される為に努力をしなくてはいけない。

 人は自分を無力だと決めつけた時、本当に無力になる。

 …引っくり返せば、信じるって言う事はそれだけとんでもないエネルギーを作り出すって事


  都内の中央に設けられた巨大なクリスマスツリーの元、一人の女がダイバーフォンのラジオを聞きながらイルミネーションと

 ライトアップに映し出されたツリーに見入っていた。

 暗い深夜の街に幻想のように浮かび上がるそれは息を呑むような美しさで、柄にもなく彼女は胸がどきどきする高揚を覚えた。

 吐く息は真っ白で、凍てつく冷気が彼女の雪のように白い肌をちくちく刺激する。

 だけど草園陽子はそう寒いとも思わなかった。ほんの僅かな時間ではあるが、今日は大好きな二人に会える日だからだ。

 ツリーの周囲にいるのは恋人たちばかりで何となく気まずい気持ちではあるが。

  ロングコートの袖を合わせてしばらく待っていると、時間ぴったりにその二人は現れた。

 一人は金髪の少年、もう一人は黒髪をオールバックにした痩身の青年だ。

 「やっほい」

 横断歩道を渡ってくる二人に軽く手を振ると、少年の方が飛び上がって思いっきり手を振り返した。

 「おーい!」

 「暫く振りだな」

 青年の方は僅かに微笑を浮かべ、落ちついた様子で短く挨拶を済ませた。

 「待った?」

 「ううん。ラジオ聞いてたから」

 飛び付いてきたパンハイマの体を引き離すと彼女は笑って自分の頭を指差した。

 「ダイバーフォンか、へえ。何かクリスマスの特集でも?」

 「いやあ。ずーっと休んでた番組がようやく再会しててさあ…好きだったんだ。で、どこ行く?」

 青年とパンハイマは顔を見合わせた。

 「僕ら少ししたら別んとこで用があるんだ。やっぱ陽子ちゃん来れない?」

 「私、社のパーティに出席しないとダメだから…行きたかないけどお偉方に顔見せとかないと」

 パンハイマの言葉に陽子は困ったように笑う。青年がちらりと時計に眼をやった。

 「余裕は一時間くらいか…どこで過ごす?」

 「当然! お酒を飲みに行きませう」

 三人は連れ立って夜の街へと消えて行く。



 もしも…もしもこの放送を聞いている誰かが、悲しかったり辛かったりしたら…

 貴方の中のもう一人のダメな自分が、いつも自分の邪魔をしたりしたら…

 信じて。自分という存在を、諦めてしまわないで。

 信じる事で人は変わって行く。自分が変わった時、それで今まで見えていた世界は始めて変わる…

 弱さを受け入れ、それを自分の一部と認めるの。

 そうやって自分を別の場所から見ることができようになれば、鬱の闇は晴れてゆく。

 大変だけどきっとできるわ。少なくとも私はそう信じてる。

  街中のとある四方をビルに囲まれた狭い公園で、一人の少年が空を仰いでいた。

 右腕はギプスに包まれ、右手の五指はすべて当て木で固定され包帯が巻き付けられている。

 服装に隠れているが背中の裂傷にも治療の後があり、その他の細かい傷は数え切れない。

 内臓に損傷がなかった事は奇跡としか言い様がなかった。

  凍えるように寒かった。

 彼の格好は患衣の上に厚手のダウンジャケットを引っ掛けただけで、明らかに病院を抜け出してきたとわかる。

 長い前髪が寒風に踊り、彼の細い眼を露出させた。

 しかしダイバーフォンを通して聞こえる少女の声は少年の心に例え様のない暖かさを与える。

 どうしようもなく広く残酷なこの世界で何故自分はこの人と出会えたのだろう?

 そう考えると胸が熱くなる。

  時間が止まっているように静かな夜空を見上げていた彼は、不意に気配を感じて振り返った。

 「サカエ」

 酷寒でも咲く薔薇、咲き乱れたプラチナスノウの花壇の向こうに見えた彼女に姿にガガの胸は高鳴った。

 花に彩られたクドリャフカの姿は闇をバックに妖精のように美しい。思わず息を呑むほどだ。

 クルミに借りたのだろう、見覚えのある白いダッフルコートに身を包んでいる。

 冷えた外気に赤くなった鼻を擦りながら、何故だか恥ずかしそうに笑って彼女は駆け寄ってきた。

 「どうだった? 『シスター・マリア』」

 「うん。最高だった」

 ちなみに彼女はパーティが済んだ後にミッドナイトパンプキンのメンバーにパソコンを借り、ダイバーラジオの録音を済ませて

 流してきたばかりだ。

 久し振りだから緊張した、とまた笑って彼女はポケットに突っ込んだ両手を出した。

  事後を少し説明しておくと、疲労と空腹で倒れたガガは後続の社の部隊に救出されて事無きを得た。

 クドリャフカのボディを難なく持ち出せたのはミス・シンデレラの機転で、アザーの一時的な拠り所にしていた機器を入れてきた

 トランクに彼女の体を押し込んでおいたのだ。

 内心バレないかと冷や冷やだったのだがどうにかうまく行き、結局中身を検査される事もなく持ち出しに成功した。

 アザーは人格を保つのに最低限必要なまでに情報を削ぎ落とし、スリムアップする事でかなり小さな機器に入りクドリャフカと

 同じトランクに詰められて脱出している。

 アザーが今回の件に惜しみない助力をしていた事を知ると、クドリャフカは涙を流してアザーに謝罪した。

 またナヴァルーニャと再会し、その無事をお互いにひとしきり喜び合っている。

  一方ガガは入院がきっかけに親にすべての事が発覚し(一部はうまくミス・シンデレラが誤魔化しておいたが)相当危険な

 綱渡りをしてきた事がバレて生まれて始めて彼らに殴られ、叱られた。

 学校の方はすでに冬休みに入っていたが彼の出席日数はそうとうマズいところまで来ているらしい。

 これからまた学校に行くかどうかは決めていない。

  色々な事が夢のように過ぎ去って行った。

 しかしガガにとっては現在の方がよっぽど夢のようだった。

 彼女が今、ここにいる。

 それだけの事が何故か嬉しくて、涙が出そうなくらい有難い。

 もしも彼女を助け出しに行くと誓った日、やはり諦めてあのまま電車に乗っていたらクドリャフカとは永久に出会う事は

 なかっただろう。

 運命とは不思議な絡み合い方をする。

  しばらく二人の息遣いだけが静かなこの場所に響く。何時の間にか彼らは手を繋いでいた。

 「私を助けに来てくれた事」

 ぽつんと漏れた彼女の言葉にガガの視線はまた相手の横顔に移った。

 「『シスター・マリア』のファンになってくれた事、私を好きになってくれた事。

 そして貴方がこの世界に生まれて、そして今まで生きてきてくれた事」

 突然彼に抱きつくと、慌てふためく相手の様子には気付いた風もなくクドリャフカはそっと囁いた。

 「ありがとう。貴方の何もかもに、ありがとう」

 「僕も」

 左手で精一杯彼女を抱き締めるとガガは涙を堪えて笑った。

 ビルの隙間風が渦を巻き、プラチナスノウの花びらが宙を舞っている。

 「君がいなかったら、きっとこんな所まで来れなかった…だけど、信じる事ができたから。

 ありがとう」









  クドリャフカはこの後、本人の切望から故郷である北方領土の樺太へ帰る事になっている。

 家族の事が気掛かりだと言うのだ。旅費の資金はミッドナイトパンプキンのメンバーのカンパによるものである。

 もしかしたらクドリャフカはもう二度と本州へは帰って来れないかも知れない。

 だけど二人にとっては距離はそれほど問題はない。

 そう、電話線が続いている場所ならばサイバーダイヴ能力の持ち主にとって世界の裏側も近所も一緒だ。

 それにいつだって二人は一人じゃない。

 この世界のどこかの片隅できっと自分の事を待っていてくれる人がいる。

 同じ時間を、想い出を共有した人がいる。

 だから、一人じゃない。






 …人は誰もがいつか、死ぬ。

 私は旅立つその日が来たら、この世のすべてに言いたいの。

 「ありがとう」って。「想い出をありがとう」って…


  えーと。ちょっと語っちゃいましたね。てへ。

 次回からは歌もアップしようと思いまっす、それじゃあ短いですがこのへんで!

 シスター・マリアまた来週ぅー!

































 2002-10-14
 シスター・マリア
 HAPPY END!



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