プワゾンドールズ #3
- ハッピーエンド クリスマス -






ネモ

9.檻


 狭い病室の中は重く粘ついた闇が支配していた。

 呼吸が詰まるほど息苦しい暗黒。

 締め切られたカーテンの隙間から漏れる僅かな採光がその闇の中に少年の姿の輪郭を描いていた。

 ベッドの上に座り、ぐったりと壁に背を預けている。

 死魚のごとく生気の無い瞳を女に向ける事なくエニクは視線を闇の中へと漂わせていた。

 両手の拳だけがしきりにずきずき痛み、これが現実だという事をかろうじてエニクに知らせている。

 暴れた時にできた傷だ。

 「まあね」

 彼は女の質問に時折思い出したように溜息と一緒に返事をする。

 毎回の質問に返事が返ってくる可能性は五分五分だった。

 それに返事と言っても『うん』とか『まあね』のように相槌を打つだけで彼から話し掛けてくるという事はない。

 闇に溶けて消えた返事に女――中宮紅緒は苛立つ自分を押さえた。

 「聞いたと思うけれど」

 この部屋に入り、椅子にかけてかれこれ四十分は経つ。

 平行線を辿る状況の流れを変えようと紅緒は質問の切り口を変えた。

 「これ以上ハートリペアの使用を続ければ貴方は死ぬわ。確実に」

 声に相手に対する圧力をかけて紅緒は良く通る声で言い放った。

 闇に浮かび上がる少年の輪郭は、しかしこの空間を支配する暗黒に同化したように微動だにしなかった。

 「死ぬのか」

 口の中で呟いた声に、紅緒は何の感情も感じ取る事はできなかった。

 「ネモが来たわ」

 次の彼女の言葉はエニクにとって不意打ちの決定打だった。

 自分を硬化させていた闇を振りほどくように始めてエニクは紅緒に向き直った。

 空気から伝わってくる。相手の焦燥と、波打つ鼓動が。

 「いつ?」

 「貴方が鎮静剤で寝ている間」

 今エニクの身体から気力を根こそぎ剥いでいるのは新たに投与された薬物の効果である。

 切れれば同時に狂ったように暴れて手がつけられなくなるだろう。

 実際数日前、デッドラインロードの会場から連れ出された時のエニクの狂乱ぶりは異常だった。

 「何て言った?」

 エニクの声に僅かばかり感情の火が灯る。

 紅緒は慎重に言葉を選んだ。

 「『病気』とだけ言っておいたわ。大した事ないって」

 数回呼吸を置いてエニクは壁へと背を戻した。一瞬でざわめきたった心からゆっくりと焦燥が引いてゆく。

 しかし心のどこかでネモの事がつかえた。

 嘘も方便、と自分に言い聞かせて紅緒は続けた。

 「焦る事はないわ。自分のペースで自分を取り戻していけばいい。…きっとネモもそう言うわ」

 紅緒の慰めの言葉にエニクは大した反応も示さずに口を開いた。

 「俺はこの国の人間じゃない」

 「?」

 「ガキの頃に街娼だった母親に連れられて他の連中と一緒に船で密入国したんだ。

 …故郷はひでえ国だった。月に一回、街で『大掃除』ってのがあってな。

 大人たちがストリートチルドレンを狩り出して撃ち殺すんだ、俺の友達も何人か死体になって軒下に並べられたよ」

 闇に浮かび上がるエニクの糸目が心なし更に細まったように見えた。

 彼が自分の事を話すのは初めてだ。紅緒は相槌を打った。

 身元の問題がある彼はまっとうな職に就く事は適わず、今の師匠に腕っぷしを見込まれてデッドラインロードの世界に足を踏み入れる事になる。

 母親は貧困が元で病気になったが強制送還を恐れて病院の世話にはならず、路上で息を引き取ったという。

 死に物狂いで勝ち上がったエニクだが元から人前で話すのさえが苦手で、ショーアップを要求されるデッドラインロードは辛く苦しいものだった。

 毎回試合後にストレスで胃液を戻した。

 「だけど、やめる気にはならなかった。デッドラインロードをやめたら俺の価値が全部なくなるような気がした…

 ここでしか生きていけないんだ。ヤクで頭ァ変になりそうになっても、ここしかなかったんだ」



 部屋を出た紅緒を鹿島が待っていた。

 「どうだ?」

 「時間と別の環境が必要です。このままでは一向に良くなりません」

 大きく溜息をついて鹿島はきっちり固めたオールバックの髪の頭を掻いた。

 「パステルデビルのリーダーが彼を引き取りたいと連絡してきた」

 紅緒の表情がさっと変わる。

 「ネク先生」

 「ここでは『鹿島先生』だ。間違ってもその名は呼ぶな」

 エニクの治療に当たる事になってここへ来た時鹿島、いやネクは色々と敵の多い身分でなと言った事を思い出した。

 「まだ時間が必要です。このまま戻しても中毒に逆戻りしてしまいますわ」

 「私もヤツにそう言ったよ。まったく、向こうから治療を頼んでおいて…」

 紅緒は切れ長の眼で真っ直ぐにネクを見た。

 一文字に結んだ唇から意志の強さが伺える。

 「そう睨むな。一応抵抗は試みる」

 ネクは屈服を強要されるようで紅緒に睨まれるのが苦手だった。

 長い付き合いだが未だにこれには逆らえない。



 「やっぱり似合わない」

 精一杯笑いを堪えてエミリーナは隣の巨漢に感想を漏らす。

 「うるせ」

 葉吹が彼女に借りた手鏡でしきりにネクタイの位置を気にしながら顔をしかめた。

 街を行く人々の中で頭一つ分突き出た、岩石のような筋肉を持つ男が紺の背広に身を包んでいる。

 シャツにくっきりと浮かび上がる隆々とした筋肉といい銀狼のごとし髪型といい、どう見てもカタギには見えない。

 「どっから見てもヤクザじゃない。ねぇネモ」

 二人に挟まれるように歩いていたネモは、彼女の声に振り向いた。

 ロングスカートで両足を隠し、ニット帽を被っている。人間でない部分を隠す為である。

 首には神社で買ったお守りや十字架などを適当に組み合わせた奇妙なネックレスを下げている。

 古滝に帰りの車の中でもらった物だ。

 『自分を含めて何を信じたらいいかわからなくなった時はこいつに祈れ』という言葉と共に投げ渡されたのである。

 12月某日の日曜日、近づいてくるクリスマスに浮き足立つ街を彼らは駐車場から繁華街に向かって歩いていた。

 葉吹は途中別れ、裁判所へと向かう。もう一年近く続いている妻との離婚裁判の為だ。

 前日にネモを慰めようとエミリーナが街へ遊びに行こうと提案し、ツァイ・レンを誘って行く事にしたのだ。

 ネモは古滝に送ってもらって帰宅後二人にたっぷり一時間は無断外出の件を責められ、事情を聞かれた。

 すべてを正直に告白したネモの落胆ぶりからエミリーナも葉吹もそれ以上何も言えなくなってしまい、責任の追及はそこでお開きとなった。

 「え…うん。そうだね」

 ネモが無理矢理笑顔を作って見せたという事はエミリーナにもわかった。

 内心溜息をついたエミリーナが相変わらず保温性能の悪いコートのポケットに手を突っ込み、ちらりとツァイ・レンに眼をやる。

 久し振りに入れたコンタクトレンズに違和感を感じている彼女はエミリーナの視線に気づきはしたが、少しを肩をすくめただけだった。

 エミリーナから事情は聞いているが慰めの言葉など見つからない。

 大好きな子が悲しみに沈んでいる。

 こんな時、人はどうすればいいのだろう。



 一方別の場所でもある一行が街を闊歩していた。

 思い思いの格好の中に一人、黒のロングコートを羽織りキャップを目深に被った少年が憂鬱そうに視線を漂わせている。

 足取りは重く、幾度となくもつれている。

 人相というか、雰囲気からこの数人の集団がまともな市民でない事を察知した通行人はそそくさと彼らに道を空けるのだった。

 その中心にその、キャップの少年がいる。

 後頭部からは一つに束ねて編んだ金髪が垂れていた。

 「そう喚くな」

 少年のすぐ隣を歩いていた、一見してリーダーとわかる重圧感を持った男が手にした携帯電話にこともなげに言った。

 「寝ている間に患者を取られたくなかったらこれからはもっと早起きして出勤するんだな。

 ムチャはさせん、自宅療養に移すだけだ。監視もつける」

 会話の内容は聞えてはいたがエニクは聞かないよう努めた。

 今朝、彼らは突然やってきて彼に帰るぞと言った。

 男達は全員見慣れた顔だ。パステルデビルのチームメンバーであり、エニクとはもう随分長い付き合いになる。

 担当医が出勤するより早く病院を後にした集団は駐車場へと向かって前進を続けている。

 メンバーは数回エニクを気遣って話し掛けたが彼は面倒臭そうに適当に相槌を打つだけだった。

 「そんなに心配ならお前がウチに回診に来い。歓迎するぞ、じゃあな」

 それだけ言ってリーダーは電話を切り、電源を落とした。

 手にしていたそれをポケットに突っ込む動作を見ていたエニクにリーダーはできる限り優しく言った。

 「他にはこれ以上預けておけん。お前は大切なプレイヤーだからな。

 …悪いが部屋は調べさせてもらった」

 「何か出てきた?」

 視線を進行方向に戻しながらエニクは珍しく自分から質問をした。
                          ガンスプレット
 「ハートリペアのカートリッジが箱で二つ、銃型注射器が一つだ」

 リーダーは特に彼の薬物の使用を責めてはいない。

 デッドラインロードの運営委員会はプレイヤーの薬物の使用に特に規定を設けてはおらず、エニクは療養を終え次第復帰する事になっている。

 この世界では薬物の使用など茶飯事であり、取り締まっていてはキリがないのだ。

 自分がまたあの舞台で走るところをエニクは想像ができなかった。

 気分が悪い。頭痛がする。早く帰ってベッドで眠りたい。

 未来に対するあらゆる考えを意図的に排除して彼はただその事だけを頭に残した。



 葉吹と別れて400mも歩いただろうか。

 ツァイ・レンとエミリーナは幾度となく言葉を交わしたがネモは積極的にその会話に交ざろうとはしなかった。

 時折視線を外してはどこかをぼーっと見ている。

 その視線が正面に向かった時、ネモの瞳は縫い付けられた。

 立ち止まったネモをエミリーナとツァイ・レンが振り返って見下ろす。

 「どしたの」

 硬直したネモにツァイ・レンの声は届かなかった。

 エミリーナがネモの見物している対象を探して視線を正面に戻す。

 手前に横断歩道がある。信号は赤で忙しなく車が行き交っていた。

 その車の壁が途切れた。

 エミリーナが軽くウェーブを描く前髪を掻きあげて視界を良好にすると、横断歩道の反対側に人相の悪い男達が見えた。

 その中心にキャップを被った少年が一人。

 「エニク!」

 全身が総毛立つ感覚にネモは我を忘れた。

 叫んで赤の横断歩道へ突っ込みかけたネモの身体を慌ててツァイ・レンが押さえる。

 「危なっ、危ないって!」

 エニク?アレが?

 エミリーナはツァイ・レンを手伝うのも忘れて数十歩先に立っている少年に焦点を合わせた。

 確かにキャップから覗く糸目も細いイメージも彼と寸分違いはしない。

 しかし周囲を支配する空気は圧倒的に違っていた。

 これがあの陽気な少年のものだろうかと言う疑問を抱かずにはおれないほど、重く息苦しい沈黙をまとった少年。

 信号が青に変わると一瞬、ツァイ・レンの手が緩んだ。

 彼女が自身のそれに気づくより早くネモはその手を剥ぎ取って前方に飛び出した。



 「おい!?」

 リーダーの制止は一呼吸遅く、エニクは転身して脱兎のごとく駆け出した。

 風圧に負けてキャップが吹き飛び、金髪が風に踊る。

 呆気に取られて立ち尽くすリーダーの脇を白い閃光が駆け抜けてゆく。

 何で逃げ出したのかエニクには自分でもわからなかったが、しかしじりじりと背を焦がす焦燥は彼を逃走へとかき立てる。

 間違いなく正面に見えたのはネモだろう。

 何故、今、ここに。

 通行人に数回ぶつかったがわき目も振らずエニクは疾走した。

 背に自分を呼ぶ細い声が被さった。

 ずっと聞きたかった懐かしい声だったが、何故か今はこの上なくその声がエニクの心痛を加速させた。

 ――追ってこないでくれ

 力いっぱい眼を閉じてエニクは追っ手に祈った。

 ――今だけは俺と会わないでくれ!

 絶望はすぐに形を取って現れた。

 どこをどう走ったかまったく意識していなかったが何時の間にか路地に迷い込んでいたらしい。

 両側からビルが見下ろす、光の差さない暗い窮屈な道の行く先は金網で塞がれていた。

 昇るか引き返すかの一瞬の判断は迫ってきた足音で中断させられる。

 一歩ずつ近くなる足音がエニクの心の内を更に引っ掻き回した。

 走った時間はほんの数分だっただろう。

 しかし疲労よりも心が締め付けられるような苦痛で呼吸は激しく乱れ、額を伝う汗が彼の糸目から視界を奪う。

 金網を掴んで再び力いっぱい眼を閉じ、エニクは神に祈った。

 夢だよな?

 「エニク」

 お願いだ。覚めてくれ。

 「僕だよ」

 背を向けたエニクにネモは帽子を取った。

 ネモの兎の耳が帽子からこぼれ落ちてすぐにぴんと立ち上がる。

 髪型には僅かにニット帽のクセが残っている。

 顔を押さえてエニクは数歩先に立ち尽くしているネモにゆっくりと振り返った。

 視線を合わせられない。姿を直視すらできない。

 「どうしたの?」

 心から気遣うネモの質問に返事はない。

 エニクは彼女の視線に肌を焼かれるような苦痛に耐えるのが精一杯だった。

 見ないでくれ。

 細い唇はそう動いたが乾いた口腔から声が発せられる事はなかった。

 自分が果てしなく醜い存在に見える。

 だからこそネモの姿が眩し過ぎて、エニクはそれに耐えられない。

 「俺は」

 予想していた半分の声量も出なかった。

 「君と会うのが楽しみだったけど、苦痛だった」

 光を避けるようにエニクは腕で眼を隠した。

 「誰に会う時もそうだった。軽蔑されるのが怖かったから…『いい自分』を作らなきゃならなかった。

 クスリの副作用で死んだっていい…」

 エニクがかざした腕が涙を隠す事だとネモは気づかない。

 「死んだっていい。『イヤな自分』を見られて嫌われるくらいなら死んだっていい!」

 一歩前に踏み出そうとしたネモの足が止まった。

 今眼の前にいるのは、本当にエニクなのだろうか。

 この痛ましいまでに自己嫌悪に陥っている彼が、化粧が似合っていると言ってくれた優しい少年なのだろうか?

 やっと会えた人は今、自分を拒絶している。

 「頼む。今だけは会わないで。話さないで…俺を、見ないで」

 ポツ、と顔を手で覆ったエニクのジーンズに雫が落ちる。

 ネモは始めてエニクが小さく震えている事に気づいた。

 数回の呼吸を置いてやがて、ネモの背後から数人の足音がやってきた。



 夕方近く、ツァイ・レンはようやくネモを見つける事ができた。

 ネモを気遣って三人ともすぐに家に取って返したのである。

 寮の屋上はオレンジ色の柔らかな光が満ちていた。彼方のビル群を夕日が浮き上がらせている。

 冷えた空気に上着の裾を重ね合わせながらツァイ・レンは柵に背を預けて縮こまっているネモに声をかけた。

 「風邪引くよ」

 涙に腫らした顔を上げたネモの顔は、痛ましいまでに沈んでいた。

 頭頂の兎の耳は力なく垂れている。

 「僕が」

 消え入りそうな声でネモは答えた。

 「僕がいけなかったのかな」

 その言葉にネモの前に立ってしばしツァイ・レンは考えを巡らせ、眼鏡の奥の眼を細めた。

 「僕もエニクも最初から会わなければ良かったの?」

 ツァイ・レンは独り言のように呟くネモにどう声をかけたらいいか迷った。

 澄んだ空気を通して伝わってくるこの子の心は行き場のない思いに満ちて震えている。

 救う方法はどこにあるのだろう。

 「いつか分かり合えるよ。今は無理かも知んないけどさ」

 しゃがみ込んだ彼女がじっと下を向いたままのネモを見つめる。

 努めて優しく笑って見せたツァイ・レンの笑顔は僅かにネモの心を氷解させた。

 「いつか、きっとね。時間をかけてゆっくりお互いの事を知ってこ」

 顔を上げたネモの顔に僅かに笑顔を認めてツァイ・レンは内心ほっとした。

 「さ、入ろう。寒くていけねえや」

 立ち上がったネモの手を引いてツァイ・レンは錆びた扉へ向かった。

 ネモは彼女の手の暖かさが、今この人がいてくれた事が嬉しかった。

 「あれ」

 ツァイ・レンがネモの胸元から、耳障りな金属音が聞えない事に気づいて彼女を見下ろす。

 「あのヘンなネックレスは?」

 「うん」

 ネモは余っている手を胸に当てて昼間の事を思い出した。

 「レンとエミーとパステルデビルの人たちが来てさ、エニクを連れてく時に彼、僕ととすれ違ったでしょ?

 その時あの人にあげちゃった」

 あげたというよりは半ば強引にエニクのロングコートのポケットに突っ込んだのである。

 今、神様の優しさが必要なのは自分ではなくてエニクだろうから。



 一方エニクはさるマンションの一室へと足を踏み入れていた。

 リーダーの言った通り、置かれているものの位置が大幅に変わっている。

 薬物を探し回った跡だ。

 明かりも点けず雑然とした部屋に入るとエニクは真っ先に勝手知ったるキッチンに向かった。

 ぎしぎしと建てつけの悪い建物の床が不平を漏らす。

 冷蔵庫を開くと賞味期限を大幅に超過した物品が放つ異臭が鼻を突く。

 その中を漁ってヨーグルトのパックを取り出したエニクは、冷蔵庫の前に扉を開けっ放しにして座り込んだ。

 その中身が変わっていない事を重量から確認すると、冷蔵庫から漏れる僅かな明かりを頼りにフタを剥いだ。

 …本当はあの時、助けて欲しかった。

 ネモにすがって救いを求めたかったのに、何故あんな事を言ってしまったのだろう?

 腹の底から湧き上がるどす黒い感情を押さえ込むのはもう不可能だった。

 ヨーグルトのパックを逆さにすると床に銀光を返す節くれと数個、人差し指くらいの試験管が乾いた音を立てて床に落ちる。

 ――何故人は、一番大切なものを自分の手で破壊してしまうのだろう。

 手馴れた手つきでヒスイ色の薬物が入った試験管を銃のような形の注射器にセットすると、エニクは何の迷いもなく首筋に銃口を押し付けた。

 内心自分の中の何かがその行動に対して抵抗してくれる事を期待したが、しかし人差し指は何ら躊躇を見せなかった。



 血流に乱入した異物の感覚に身を委ねながらエニクは今、ネモに対する感情の変化を感じた。

 もうダメだ。あの娘を壊さずにはいられない。



















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