プワゾンドールズ #3
- ハッピーエンド クリスマス -






レディオガール
RADIO GIRL


3.プラネット・ローズマリー


 何だか随分長い時間意識がなかったような気がする。

 ぼんやりしていた天井の灯りの輪郭がはっきり見えてくると、ようやくサチはここがパンハイマの家の居間だと言う事がわかった。

 ソファの上に横たえた身体は血と鉛が入れ替わったみたいにだるく、重い。

 がんがん痛む頭からもやを取り払おうと軽く振って毛布を跳ね除け、上体を起こして意識を覚醒させる。

 「やあ。起きた?」

 目をこするサチに、ソファの端に座っていたパンハイマが漫画雑誌を片手に声をかけた。

 「うん。今何時?」

 「もう朝の5時だよ、家についてからずーっと君ァ寝てたからね」

 ああそうだ、昨日の昼間叔父さんと買い物に行ったんだっけ。

 まだ惰眠に抗えない頭でぼんやりとサチは思い出した。

 「何か食べるかい」

 「うん。叔父さんずっとそこにいたの?」

 立ち上がって大きく伸びをしながら、寝癖のついた髪を撫で付けるサチにパンハイマは微笑みかけた。

 「僕もここで寝ちゃってたんだよ、さっき起きたとこ。ピザ食べる?昨日の夕食に取ったんだけど君、起きないからさ」

 サチがソファの後方のテーブルに置いてあったデリバリーのピザを一切れ手に取り、気だるそうに口に運ぶ。

 すっかり冷えているが空きっ腹にはありがたかった。

 「叔父さんはやっぱ男の子だよね」

 「?」

  不意にサチがピザを噛み締めながら、そんな事を呟いた。

 「あたしヘンな夢ずっと見てた。怖くて死にそうだったよ」

 「今夜から一緒に寝る? きっといい夢が見れる」

 「バカ」

 彼女がペットボトルの中の液体で口の中のものを飲み下すのを見計らって、パンハイマは声をかけた。

 「君ァ何か僕に言う事があるんじゃないかな」

 雑誌を閉じたパンハイマに二口目を噛み千切ったサチが振り向く。

 「うん。色々ありがと」

 「お礼のこっちゃないよ、そんなのキスの一つでもしてくれりゃァいい。こいつの事」

 取ってきたばかりの新聞を開いて見せると、パンハイマは小さな記事を読み上げた。

 「昨日夕方四時ごろ、神薙市内の駅で投身+飛び込み自殺があったそうだ。

 被害者は30代女性、拒食症を煩っていて病院通いの日々…僕達が見たあの人じゃないかな?」

 一瞬ピザを運ぶサチの手が止まった。

 「お友達だったとか?違うよね。…何でわかった?この人が自殺するって」

 ヘッドディプレイを通して感じる視線からは、いつもの陽気なパンハイマのものが消えている。

 今度は免れそうに無い追求にサチは眼を閉じてしばらく考えを巡らせた。



  サチの要望でパンハイマと二人はマンションの屋上に上がっていた。

 鉄の柵に四方を囲まれたスペースは走り回れるくらい広く、中央からやや右のあたりが突き出しており貯水タンクがそれに

 乗っかっている。

 はるか彼方の街には黎明の朝日が顔を出していた。

 身を切るような朝の空気にジャンパーの前をぴったり合わせながら、パンハイマは身震いした。

 足元のコンクリートから靴を伝って冷たい感触が伝わってくる。

 「僕は南国生まれなんだけどなあ」

 真っ白な息と一緒に不満を垂れるパンハイマを他所にサチはタンクの塔に上り、屋上で腰を降ろしていた。

 朝日に眼を刺されながらもじっと彼方を見つめている。

 不意にパンハイマはそんな彼女が何故かとても寂しそうに見えた。

 捨てられた野良猫のように行き場所のない、哀れな存在のように。

 「まず叔父さんが多分思ってるのとは違くて、あたしは人の心なんか読めないよ」

  冷えた空気にサチの声が響く。

 ふと彼女が瞼を下ろすと、腕を持ち上げて正面を指差した。

 「あっちで女の子が寂しさに震えてる。ケータイをなくしてイライラしてる…誰かに会いたい。誰かと話したい。

 でもケータイじゃないと話せない」

 鮮明に見えているかのような口調で漏らすと、次は指先をやや右方に反らせる。

 まるで電波を受信しているスピーカーのようだとパンハイマは黙って聞きながら思った。

 「あっちでは誰かがすごいムカついてる。殺してやりたいくらい。…何かを取られた感じかな」

 言い終えると『あ…』と呟いてサチは瞳を開いた。

 すぐに再びぎゅっと思いっきり閉じて、サチは両手で力いっぱい耳を塞いだ。

 身を竦ませて小刻みに震えている。何か、見えない力に身体を犯されるような恐怖に身をさらされているようだった。

 「サチ?」

 「また自殺だ」

 か細くサチが声を絞り出した。

 「多分男の子。…自分はみんなにヘンだって思われてる、いつも笑われてるって思い込んでる…死んだ」

 ポツリと漏らした最後の言葉は、パンハイマを戦慄させるに充分な真実味を帯びている。

 彼女の歯の根が合わなくなるくらい強張らせた身体はまだ小さくなって震えていた。

 顔は腕に遮られているが、パンハイマにはサチの涙が見えた。

 「人はみんなアンテナを持ってる。

 そんでやり場のない感情、寂しいとか痛いとか、死にたいとか…そういうのが『電波』になって発信されてるの」

 冷たい鉄のはしごに掌を当てる事に軽い拒否反応を見せながらも、サチの隣まで登ってきたパンハイマができるだけ優しく答えた。

 「君はそれが受信できるのか?」

 隣に腰掛けたパンハイマに数回小さく、サチが頷く。

 「受信した電波からある程度それがどんな人かわかるけど、あんま詳しい事はわかんない。

 死に際とかに人が出す電波ってものすごく強くて、時々あたし頭の中引っ掻き回されるの。

 何でみんながみんなを大好きなまま生きていけないんだろう」

 少年は顔を上げないまま頭を抱えるサチの肩を抱いてやった。

 「いつから?」

 「日本に来て遭った事故の後」

 サチは母親の故郷へ里帰りした数ヶ月前に交通事故に遭遇し、大怪我を負ったと言う。

 じゃあそのケガが原因かな、とパンハイマが口には出さず何となくそう考える。

 ただの神経症かとも思ったがそれにしてはどこかおかしい。にしてもそれじゃああのクシミナカタとか言う男は?

 もしかして彼も『アンテナ』を持っているのだろうか。

 「親には?」

 「言ったけど、言ったら私をどっかの施設に入れようとすんだもん」

 そりゃまあ、そうだろうねと内心パンハイマは思った。

 あまりにも突拍子がなさ過ぎる。自分だってまだ信じられないくらいだ。

 「だからケンカして逃げてきたってワケか…」

 ようやく線が一本につながり、パンハイマが感心したように漏らした。

 「違うの。それとは別の事で」

 「別の事?」

  いきなりサチが彼の腕を振り解くと、その胸ぐらを掴んでぐいと顔を迫らせる。

 いつにない鬼気迫る表情に圧倒されて思わずパンハイマは仰け反った。

 「叔父さん絶対! 誰にも言わないって約束できる?」

 「でっ…できます」

 気圧されながら引きつった表情で答えるパンハイマを前に、深呼吸して自分を落ち着かせるとサチは小さく漏らした。

 年相応に恥ずかしそうに視線を反らしながら。

 「…あたし地球人じゃないの」

 一瞬言った彼女が言った言葉に理解が及ばず、パンハイマの時間が静止した。

 地球人じゃない?

 「事故でやっと思い出したの!私はプラネット・ローズマリーの出身でここの星の人間じゃないの!」

 プラネット・ローズマリー?

 「…僕達今、真面目な話してたよね?」

 パンハイマは目の前のこの奇妙な能力に目覚めてしまった少女がいきなり発狂したんじゃないかという不安に駆られ、

 恐る恐る確認を取る。

 「あたしは真面目に言ってんの!」

 「ぐ、苦しい苦しい!」

 物凄い剣幕で怒鳴るサチに怯えながら、彼は自分の胸倉をぐらぐら揺さ振るサチの手を握った。



  パンハイマは同居していた少女が宇宙人だと言う事を知り、容易に想像できる多難な今後に頭を悩ませていた。

 今目の前で一緒に昨日の残り物のピザを朝食として摂っている少女は、自称地球人ではないのだ。

 何だってこんなムチャクチャな思い込みをしてるんだ? 嘘のつもりで言ってるんなら惚れちゃうような勇気だぞ。

 向かい合ってテーブルについている目の前の宇宙人をじっくり観察しながら、パンハイマは深く溜息をついた。

 宇宙人は別に人間と大して変わったふうもなく朝食を旺盛に続けている。

  彼女が言うには地球から遠く離れた(大体銀河系四個分だそうだ)さる宇宙にその故郷の星はあり、名をプラネット・ローズマリーと

 言うらしい。

 プラネット・ローズマリーとは地球語に直した言葉であり本来ならば地球人には聞き取る事も発音する事もできないそうだ。

 その星で次期女王として生まれたサチ・クラフト(本名は女王ユーリヤ・ミネルヴァリア妃)はクーデターに巻き込まれて絶体絶命のところを

 家臣の一人に長距離航行用カプセル宇宙船に押し込まれて遠く地球までたどり着いたという。

 「それでね。着地の事故で記憶を無くしたもんでとりあえず地球人の姿を借りたワケよ」

 お願いだ。今までのは全部冗談だよーって早く言ってくれ。

 「んであたしの親はどうもペンタゴンかどっかとつながりがって、宇宙人の私を普通の人間として育てるように言われてたっぽいワケ。

 いつか解剖だかあたしの能力を解明して兵器に利用するだかしようとしてたんだと思う」

 世話話のように話すあたりが真実味を加速させる。話の内容ではなくサチが本気で喋っているという事を、だ。

  一気に失せた食欲にピザを置き、パンハイマは目頭を押さえて苦悩した。

 その様子に指についたソースを舐めながら、サチが大して心配そうでもなく声をかける。

 「どしたの叔父さん」

 「いや…それは大変だったね」

 彼の重苦しい思考を知ってか知らずか、サチはパンハイマが手放したピザに手をつけた。

 「んだけどあたしは事故で記憶を取り戻しちゃったんだ。みんなあたしの頭がヘンになったっつってるけどそれは嘘なの」

 彼女の話を適当に聞き流しながら、パンハイマは今後の事に頭脳をフル動員させていた。

  まずサチの親に連絡を取ってこの事態についての話を聞かなきゃ、それと主治医と相談して原因の究明をしないと。

 だけど僕はサチの親には連絡しないって約束しちゃったんだよな、連絡は必ず自分でするからサチが言うから…

 ああ、女の子との約束を破るなんて最低の男がする事だなあ。

 どうしよう、こんな時ネクだったら、陽子ちゃんだったらどうするかなあ?

  古い二人の友人の事を考えながらパンハイマは更に出口のない考えを巡らせ、もう一度深く溜息をついた。



  その日の午後、パンハイマはサチを連れて市内の病院へと足を運んでいた。

 勿論彼女の頭の中を調べる為である。

 サチの言っていた事故の影響で恐らく思考の錯乱が現れているのだとパンハイマは考える。

 何と言っても自分を頼ってやってきた女の子なのだ。ここまできたら付き合ってやろうとパンハイマは自分に決着をつけたのである。

 それにサチは自分が宇宙人だとパンハイマに告白したのは彼を信頼しているという事に他ならないではないか。

  この病院はパンハイマの勤め先のオシリス・クロニクル社と深い繋がりがあり、彼にとっても馴染みの場所である。

 院内は平日だが込んでいた。

 懐かしい消毒の香りを胸にいっぱい吸い込み、パンハイマは頭脳が冴え渡るのを感じた。

 「ねえ」

 待合室で漫画雑誌を手にしてベンチに戻ってきたパンハイマに、サチが疑惑の念を込めた視線を送った。

 前回の大瀬通に行った際に買った、安い紺のトレーナーとジーンズを着ている。

 ジャンパーは相変わらずパンハイマに借りた男物で、まだ幼さの残る顔立ちのサチにはあまり似合っていない。

 「何であたしの頭ん中調べるの?」

 「だって君、ちょっと前に事故ったんだろ? 後遺症が出てないか定期的に調べてもらわなきゃ」

 もちろん本当の事は言わない。

 「叔父さんて医者でもあるんでしょ? 家で調べてくれればいいじゃん」

 「ムチャ言うなよ、レントゲン撮ってきちんと診てもらわなきゃダメ」

 パンハイマが雑誌を開いて目次に眼を通した時、スピーカーから看護婦の番号を呼ぶ声がした。

 不満こそ言わないもののまだ口を尖らせていたサチが、手の中の札を確認して立ち上がる。

 「君の言う事は勿論信じるよ。だけどできれば君だって元気なまま自分の星に帰りたいだろ?」

 この言葉が駄目押しの一撃となり、サチは頷いて自分の足でレントゲン室へ向かった。






  あからさまに何だこのガキは、という眼をしていた年配の医師はパンハイマがオシリス・クロニクル社の社員カードを見せると

 すぐに大人しくなる。

 サチが去ってから数十分後に診察室にお邪魔したパンハイマは。光に透かして出来たてのレントゲン写真を覗き込んでいた。

 子供が年配の医師を押し退けて真っ先にレントゲンを受け取り、眺めるとはなかなか妙な光景である。

 今回撮ったのは頭部のレントゲンだ。正面と右向きの二つを照らし合わせながらパンハイマは眉をひそめた。

 「血の塊ができてる。脳血腫か、脳のこの部分を圧迫してる…」

 写真に指を這わせながら少年は呟くように漏らした。

 「脳底部だね…。なるほど、こいつは危険だ。何で摘出しなかったのか納得いく」

 ヘッドディスプレイを通して見せる彼の表情があまりにも理知的なのに隣に立っていた医師は驚いた。

 今ここに立っている少年は外見こそ小さくあれ伊達に三博士などと呼ばれてはいない。彼はその名も高き天才なのだ。

 「手術が困難な上に例え摘出できたとしても頭が治るかどうかは疑問ですし、術後の副作用も深刻で命に関わります」

 子供相手に使う医師の敬語はどこかたどたどしかったがパンハイマは気にも留めない。

 「まったくだね。どうしようもないけどこのままコレが大きくなってったらそれでもやっぱり彼女は死ぬ。

 今んとこは大丈夫みたいだけど…」

  乱暴に説明すればサチの脳内には恐らく事故でできたであろう血の塊ができており、それが脳内の一部分を圧迫して記憶や思考に

 錯乱を呼び起こしているのだろう。

 しかしその血の塊というのが脳の最も深い部分にあり、手術して取り出すにしても大変な危険を伴う。

 パンハイマの友人に世界一の脳外科医がいるが果たして彼でもできるかどうか。

 そもそも僕だけで手術に踏み切る判断はできない、何とか両親に知らせないと。

  レントゲン写真を返して手短に礼を言うと、パンハイマはサチの待つ待合室に急いだ。

 看護婦や患者とすれ違い廊下を進みながら、彼は何となくサチの『アンテナ』の能力とこのケガが関係しているような気がしていた。



  夕焼けが街を紅く染める頃、二人は並んでアスファルトの道路を歩いていた。

 パンハイマは車の免許を持ってはいるが警察はどんなに言っても彼が36歳だと信じてくれはしないだろう。

 それはまあそうだと自分でも納得している為、パンハイマの行動は主にタクシーと徒歩によって成り立っている。

 行きは良かったが帰りのタクシーが捕まらなかった為に二人はこうして街外れを歩いているのである。

  今日知った色んな事をどうサチに伝えようかとパンハイマはあれこれ頭を悩ませていた。

 頭に血腫が出来てるだの何だの言っても信じる道理はないだろう。となればその事は黙っているのがいいのかも知れない。

 しかし血腫が大きくなってきたら命に関わるのだ、そんな大切な事を知らせないままでいいのだろうか?

 「君の親に連絡しちゃあダメかい」

  呑気に歌を口ずさんでいたサチに、不意にパンハイマがそう漏らした。

 返事はすぐにきた。

 「絶対ダメ」

 だろうね、と内心彼は舌を出した。

 サチは自身が定期的に親に電話するとパンハイマに約束しているが、しかしそれではどうやってサチの頭の事を伝えればいいのだ。

 いっそ電報かなんかで知らせてみるか、ってそれじゃあほとんど屁理屈だなあ。

 夕日のオレンジを帯びた金髪を乱して頭を掻きながらパンハイマは歯痒い思いをしていた。

  二人が歩いている住宅街はパンハイマのマンションがある丘の中腹よりもやや下層にあり、そのうちのほとんどに入居者はいない。

 バブルの時代に乱立した高級住宅やマンションなどが軒を連ねているが不気味なくらい静かな場所である。

 あまり夜は通りたくない場所の一つだとさきほどパンハイマはサチに言っていた。

 「ところで君ァいつまでウチにいるつもりなんだい? まあずっといてくれると僕も嬉しいんだけどね」

 パンハイマの最後の言葉を嬉しく思いつつも、サチは空を仰いで考え込んだ。

 「んー。ローズマリーのお迎えがいつ来るか、だなあ」

 「それっていつなの?」

 「わかんない」

 パンハイマだって数週間の連休を取ってはいるが、いつまでも仕事が始まらないワケではない。

 また数ヶ月間は家に帰れない日が続くだろう。

 だけどもしかしたら、そうなったらこの娘は本当に一人になってしまうんじゃあないだろうか。

 風に舞い上がったショートカットの黒髪を押さえる彼女を隣に、不意にパンハイマはそんな心配が胸に湧き上がるのを感じた。

 「いつもどこかに帰りたかった」

 ふとサチが思い出したような言葉を口にした。

 「どこにいても自分の居場所がなくて、街の明かりを見てると物凄く寂しくなった。

 世界中にはこんなに灯りと人と家に満ちているのに私の帰る場所は一つもなかった」

 パンハイマに向き直ると彼女は少しだけ笑って見せる。

 「だけどやっとわかったよ。それはあたしが地球人でないからであって、当然のこと。故郷はここじゃあないんだ」

 その故郷さえもが彼女の頭の中にしか存在しないと、何故パンハイマに言えただろう。

 「何度か自殺しようとした事もあるけど、本気で死にたかったかどうかはわかんない。

 手首を切った時は物凄く痛かったけどやっぱりあたしは生きていたかったんだと思う。だって…」

 そこでサチは言葉を切った。

 「なんでもない」

 そう言ってはにかんだように笑って彼女は誤魔化し、歩く速度を速めた。



  前方で夕闇が凝固しているのにパンハイマは初めて気づいた。

 両側を高級住宅に挟まれた広い道路の脇にベンチが置いてあり、そこに羽のように白く薄いドレスをまとった少女が腰を降ろしている。

 彼女を守るようにして道を塞いでいるのは、二人の黒服の男。

 闇に浮かび上がる肌は異様に白く眼だけがガラス球のように浮き出て輝いていた。

 「こんばんわ」

 キャンバスに筆を走らせながら、視線を外さず少女が先に声を走った。

 風に触れて鈴が鳴るような優しい声だが、どこかで何かを押し殺したような声だった。

 昨日見たゴッドジャンキーズの一員だと気づき瞬間的に緊張に囚われたパンハイマが、懐に手を突っ込みながらサチを背後に押しやる。

 重苦しい圧力を含んだ殺気の風を放ちながら、イコンは構わず続けた。

 「殺しはしない。『アクティヴアンテナの使い道を教えてやれ、脅かせ』が私の受けた命令だから」

 筆をベンチに置いて立ち上がると、伏せたキャンバスを手に初めてイコンは二人に向き直った。

  13か4くらいの少女だ、双眸はそれぞれ別の色を放っている。

 僅かに茶を帯びた黒髪が愛らしさを増しているが、元は優しそうな表情が常であったであろうその顔は声と同じく何かを押し殺している。

 黒のベルトで身体に固定したドレスから漏れる肌は、男二人と同じく白蝋のごとく異様なまでに白かった。

 「私はイコン。そっちの子はサチさんでしょ?」

 触れば手折れそうなくらい細い指をパンハイマの背後に隠れているサチにそっと向け、イコンははっきりとそう言った。

 「お前達ゴッドジャンキーズだろ? 何が目的だ!」

 相手の質問を制してパンハイマが声を張り上げる。

 「ウチのリーダーはそっちの子にご執心みたい。あの人も困った人だから…」

 半分溜息交じりに言うイコンを前にサチが不意にパンハイマのジャンパーを掴んだ。

 瞳は怯えを押さえ込みながらもじっとイコンを睨みつけ、そして不意に奇妙な事を漏らした。

 「…あの子、二人いる」





















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